「デザイン思考」や「デザインスプリント」にデザイナーとして思うこと

流行の「デザイン思考」と実際のデザイナーのそれとは別物。
皆さんこんにちは。プロダクトデザイナーの上野です。
突然ですが、「デザイン思考(Design Thinking)」という言葉 聞いたことあるでしょうか?
デザイナーのデザインプロセスが 事業の課題解決や価値創造のアプローチに活用できるとして、それに倣ったモノゴトの考案の進め方を体系化して“デザイナーではない一般の方向け” に考案されたフレームワーク。
近年、ビジネス系セミナー・ワークショップとして人気を博しているテーマです。
しかし、私のようなプロダクトデザイナーは この「デザイン思考」というものに かなり違和感を感じてしまいます。その名称も内容も。
今日はそのことについて、少しお話したいと思います。
元々は「デザイン」を科学的に捉えようとした取り組み
英語では “Design Thinking” 。現在では すっかりセミナー・ワークショップで採用される一連のフレームワークを指す言葉となっていますが、元々は「デザイン」という行為を工学的・科学的に捉えて体系化しようと試みた研究テーマであったようです。
一説では、日本のモノづくりの思考法(QC7つ道具や、新QC7つ道具でも中心的なツールとなっているKJ法)がアメリカやドイツなど海外で学ばれ、そこから派生したデザイン研究の成果が逆輸入的に日本にも入ってきて広がっていったとも言われています。
「優れたデザインが製品価値も企業価値も高める!」と、メーカー企業に認識され始めた1970年代。デザイナーの思考方法を分析し、製品開発工程や教育につなげることは相応に意義があったのだと思います。
現在では流行のビジネスセミナー・ワークショップのテーマに
それが現在では「デザイン思考」と言えばワークショップで採用される人気テーマとなっています。
Wikipediaによれば、2004年頃からスタンフォード大学のd.schoolで工学系の学生達への教育として体系化されたフレームワークが採用され始めたそうで、その後は徐々にビジネスへの転用が期待されはじめ、現在のようにノンデザイナー(デザイナーではない一般の方)向けのワークショップとなり普及を初めていったようです。
しかし、実際のデザイナーの思考は全く別物
「デザイン思考」と聞くと、如何にも実際のデザイナーの思考と同じような技術を取り入れる事が出来るように感じられ、デザイナーと同じように優れたデザイン成果を得られるようにも思えてしまいますよね。
しかし、私には そのような革新的な成果をもたらす仕組みには感じられません。
デザイナーが実際にモノをデザインしたり課題解決の思考をする際、その成果を得るという事に最も寄与する重要な要素は「デザイン思考」の中で触れられていないからです。
つまり、”デザイナーたる所以” の部分は全くその中に盛り込まれていないので、デザイナーと同じような思考をすることはできない と感じます。
私だけではありません。少なくとも私が知る範囲のプロダクトデザイナーは皆、「デザイン思考」は実際のデザイナーのそれとは違う と一様に口を揃えて言います。
モノゴトを考える上での大まかな流れとしては良い手順だと言えますが、本当に革新的且つ実用的なクオリティの高いアイディアを次々と生み出せるか?という意味では、大きな成果を得られる仕組みではありません。
手順自体は当たり前過ぎて特段問題ないのですが、逆に言えばそれだけでしかない ということです。
<ここで少し補足>
「デザイン思考」は元を辿れば日本のQC活動がベースになっているだけあって、”現状の把握”から物事の考察がスタートする一連の流れは非常に素晴らしく、真っ当な正攻法です。それらを学ぶことはロジカルにモノゴトを考えていく上で大変重要な意味を持ちます。私もQC7つ道具(デザイン思考とは異なりますが)は非常に優秀な分析ツールだと考えていて、企業はぜひとも取り入れるべきだと思っています。そういう意味では「デザイン思考」よりも先に「QCサークル」に取り組む方がより大きな効果を得られる可能性があります。
個々人の能力をアップしなければイノベーションは起こらない
話を戻して、「デザイン思考」のテキストやワークショップの内容を見てみると、
”革新的で実用的な良いアイディアを出すために必要な個人の能力アップ” を図る術がその中には見当たりません。
複数人のチーム内で意見を出しやすくまとめやすくする点は良いのですが、ルールや仕組みだけではく、個々の能力そのものがアップする取り組みがなければ大きな成果は得られません。
仮に、「デザイン思考」ワークショップ を プロ野球ワークショップに例えるなら
スーパースイング ワークショップ
1.バットを持ってバッターボックスに立ってみましょう。
2.ボールが来たらバットを振ってホームランを打ってみましょう。
この時、ストライクなら思いっきり振って、ボールなら振らないことが重要ポイントです!
3.打ったら1塁、2塁、3塁 と走り抜けて、ホームへ帰ってきましょう。
これで、必ず得点ができるはずです。 もちろん反復して実践することで上達します。
という具合です。
確かに、全く野球のルールを知らない人からすれば、このようなルールを攻守共に教えてもらうことで野球ができる気になってしまうでしょう。
皆が守備について、バッターボックスに立てば野球が成立しているように見えるかもしれません。
しかし、よく打って、よく三振を取って、上手く送球しなければ、名プレイヤーにはなれませんし、当然、期待される結果を出すことはできません。
それどころか、やれる気だけ満々で 実質 全く打てない、全くストライクを投げることができない、全く球が取れない、頭数だけのチームが出来てしまいます。
それは デザインも同じです。
考えるための手順を通してみるだけではなく、どうしたらそれが上手くできるのか? が大事なところで、肝になるところです。
その部分に触れていなければ、「デザイン思考」と謳えるほどの実用性が感じられません。
しかも、ワークショップの中ではプロダクトデザインやグラフィックデザインといった具体的なデザインワークにも触れられていないようで、新たなサービスや仕組みを考えるといった内容が多いようですね。
もちろん、サービスや仕組みは重要ですが、タイトルと中身の違和感は否めません。
また別の記事で触れたいと思いますが、近年 “デザイン”という言葉の拡大解釈や乱用も多くなってきているように感じます。
デザインスプリントも同様
「デザイン思考」 と同じく 「デザインスプリント」も現在 人気のワークショップとなっているようですね。
「デザイン思考」と同じようなアプローチでありながら、短期間の日程で結果を出すスピード感が魅力となっているようですが、デザイン思考同様に”デザイン”と冠するほど、本来のデザイナー的な知能の使い方にはなっていないように感じます。
欠落しているものは「センス」の科学
先のブログ記事 ”「センス」の話。この世界の全てに匹敵するほど大事なもの。” の中でも説明していますが、デザイナーたる所以は、多くの優れた「センス」を持ち合わせていることです。

世間一般では ”上手に絵が描ける” とか ”色使いが抜群に上手い” といったズバ抜けた表現力(アウトプット)を見て「センスが良い」という言葉が使われます。
しかし、それは完全な誤用です。その弊害で「センス」は曖昧で漠然としたものという誤解が蔓延しています。
本来、「センス」とはアウトプットではなくインプット側の話です。
多くのセンス(感覚)を持って、モノゴトやそれを構成する要素やそこに働く力や相関等を正しく捉えることができるかどうかが、デザインにおいてもモノゴトの思考プロセスにおいても非常に重要なのです。
記事中でも軽く触れていますが、実はこの「センス」というものは意図的に生み出し、醸成することができます。
現在 開催準備中の弊社主催デザインワークショップでは、きちんとこの「センス」の科学も学びながらデザインやデザイナーへの理解も深めていけるものとなっています。
「センス」が欠落していると、デザイン思考のプロセスが活かされない
デザイン思考では、5つのステップで考案が進められていくようです。
STEP1:Empathize(共感)
STEP2:Define(問題定義)
STEP3:Ideate(創造)
STEP4:Prototype(プロトタイプ)
STEP5:Test(テスト)
いずれも、グループワークでこの工程をこなすと”やった感” はあるのですが、個々人の能力を高める術を提供することなく皆でやって終わりでは、ただ ”やってみた” というだけになってしまいます。
どのように共感するのか?に対しては、「よく観察する」「関わる」「見て聞く」といったアドバイスがされていますが、いずれも一般的な感覚では気づけないような重要な情報を感知できるセンスを持って行わなければ意味がありません。
問題定義にしても創造の工程にしても同じく、どれほどのセンスを持った方が行うかで、その成果には雲泥の差が生まれます。
ユーザーへのインタビューにしても、ペルソナの設定にしても同様ですね。
「センス」と「システム思考」の頭脳を育めば、本当の「デザイン思考」となる
“本当の” と付くと、現行の「デザイン思考」ブームを否定するようで申し訳ないのですが、これまで述べた通り「センス」の醸成方法と、情報を頭の中でどのように処理して構築・運用するかということに触れていないという点では、やはり、本当のデザイナーの思考方法に寄せたものとは言えないと感じます(あくまで私の個人的見解ですが、同様に感じているデザイナーは多いでしょう)。
しかし、一般の方がデザインという行為に興味を持つことは少なからず世の中のプラスになっていくことですし、そこからクリエイティブな能力に目覚めていく方もいらっしゃるかもしれません。
そういう意味では、デザインと縁遠い一般の方が「デザイン思考」に触れてみることは良いことなのかもしれませんね。
そこに加えて「センス」の醸成をしていくと、より実用的になる! ということが、今回 最もお伝えしたかったことです。
ということで、全体的にネガティブなトーンになってしまいましたが、「デザイン思考」や「デザインスプリント」の取り組みそのものは素晴らしいと思っています。
それらをきっかけに、一人でも多くの方が「デザイン」ということに興味を持ち、さらに事業へのデザイン活用が広がっていけば、世の中はもっともっと良くなっていくと思います。
私も早くデザインワークショップの開催ができるように準備を進めて参ります!
- 投稿者: 上野 和宏
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